京都の「杉浦非水展」

先日の関西出張の折に何とか時間をやり繰りして、京都の岡崎にある細見美術館に出かけました。同館で開催していた「杉浦非水展」に興味が湧き、デザイン分野がまだ定着していない時代に、三越の広報担当として活躍した画家の足跡を辿ることが出来ました。まさにアール・ヌーボーの時代で、杉浦は西欧から資料を入手し、総合百貨店を目指していた三越の経営戦略に合うデザインを提供したのでした。当時のモダンな服装や装飾を身につけた女性が、流麗なポスターとして描かれていて、現代の眼で見ても大変美しい作品です。こうした作品の礎はどこにあったのか、図録の文中から探すと「ひと足早く産業発展によって社会階層の変化が起きていた19世紀末のウィーンでは、『時代にその芸術をー芸術にその自由を』の主張のもと、旧弊なアカデミズムの支配から抜け出た『分離派』芸術家たちが新しい表現を生み出していた。」(伊藤伸子解説)とあり、杉浦は分離派の手法を取り入れたことを語っています。またデザインの仕事では「注目すべきは、当時一般的ではなかった更紗を用いた装本やニッケル箔や漆の活用など、見た目の美しさではなく、素材や技法を視野に入れたデザインを強く主張している」(前村文博解説)という一文が示す通り、杉浦は装丁デザインでも力量を発揮しています。それでは杉浦の図案の基本となったものは何だったのか、こんな杉浦自身の言葉も図録にはありました。「非水は図案作りにおいて終生『自然から学ぶ』態度を崩さず、『自然を離れて、自己を表現する何者をも、持たぬことは、当然であると思う』『図案は自然の教導から出発して個性の匂いに立脚しなければならぬ』と語っている。」(伊藤伸子解説)

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