「スラヴ叙事詩」雑感

国立新美術館で開催中の「ミュシャ展」に「スラヴ叙事詩」全20点が来日しています。これはチェコ国外では初めてだそうで、私も「スラヴ叙事詩」を観たのはこれが最初でした。1980年から5年間ウィーンに暮らしていた私は、当時のチェコスロバキアには何度か出かけていました。あの頃は「スラヴ叙事詩」の存在を知ることもなく、共産圏の不自由なプラハで過ごしていましたが、ミュシャ(現地語ムハ)のポスターは知っていました。初めて出会った「スラヴ叙事詩」は、破格な大きさとクオリティの高さで圧倒する迫力をもっていました。鑑賞客がどれほど混雑していても、天井から床まである壮大な絵画にあっては、その鑑賞は充分に可能なものでした。これは1911年から26年に至る16年間で描かれた作品で、ミュシャ(ムハ)51歳から66歳に当たります。プラハ近郊のズビロフ城をアトリエにして、資金提供者はスラヴ文化後援者で米国人大富豪のチャールズ・R・クレインだったそうです。ミュシャ(ムハ)にすれば充実した後半生だったと言えます。図録より「スラヴ叙事詩」の歴史的価値が記された箇所を引用します。「『歴史的詩作』とも呼ばれる《スラヴ叙事詩》は、チェコ国民やスラヴ民族の精神への賛美、そしてヨーロッパ文化圏で複雑に絡み合う諸民族のルーツへの理解に呼びかけている。こうした事情にもあわせて、ムハは《スラヴ叙事詩》の各作品を、寓意、宗教、軍事、文化といった様々な側面に照らして、幾つかのグループに分類する。それゆえに、連作はチェコ国民だけでなく、ヨーロッパ全体の、ひいては全世界の人々に属するものであろう。その遺産は、世界文化の歴史を国民的・民族的に統一された全体としてとらえる、ヒューマンな考え方を持つあらゆる人間の関心を引き起こしており、世代を超えて広く訴えかける力がある。」(ヴラスタ・ツハーコヴァー著 美術史家・美術評論家)

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