「死者の書」について

国文学者とも民俗学者とも言える立場で存在を示した折口信夫は、私が大学生だった頃に、何かの契機で名を知り、文庫本「死者の書」を購入したのでした。古代文の暗号のような文体に解釈が覚束ず、殺された皇子が山の頂きにある墓所から蘇る物語かなぁと荒筋を辿りつつ、面白そうだけど読めないジレンマに陥った書籍でした。ただし、本書は全体に亘って品位があり、また深遠なる思いが交差しているのだけは当時から直感していました。先日まで読んでいた「現な像」(杉本博司著 新潮社)に「死者の書」が登場したので、再読したい思いに駆られました。自宅を探しても見つからないので、再購入を考えていた矢先、ネットに全文が掲載されているのを知りました。早速印刷をして読み始めましたが、何十年経とうが難易度は変わらず、物語の冒頭部分で皇子が死者となって、生前の思いを次第に取り戻し、姉の面影を追う場面がありました。さて、これからどんな展開になっていくのか、印刷した61頁に及ぶ紙はクリップ留めして、仕事の合間に読んでいこうと思います。ついでに解説も印刷しました。私がよく利用させていただくのは「松岡正剛の千夜千冊」です。そこにあった一文に「この『死者の書』の叙述の仕方だが、古代の魂を知る唯一の縁(よすが)ではないか」という箇所がありました。著者が古代人と同化して紡いだ物語というわけです。今度こそ途中で放り出さないで、頑張って読んでみたいと思っています。

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