Y・ノルシュテインの世界観に感銘

現在、橫浜のミニシアターで「アニメーションの神様、その美しき世界」というタイトルをつけて、ユーリー・ノルシュテインの作品を上映しています。ウィークディの勤務時間終了後に私は観てきて、その画面の美しさに感銘を受けました。まさに絵画が動いている感じです。上映は6本の短編で構成されていましたが、どれも独特な画風で描かれていました。日本の超絶技巧的なアニメーションには多くの観客を魅了する力がありますが、ノルシュテインはそれとは一線を画したアナログ的で芸術的な魅力に溢れています。「25日・最初の日」では、ロシア革命がテーマとなり、民衆が蜂起する様子を取り上げています。背景の都市はJ・ブラックの絵画を参考にしたようですが、寧ろドイツ表現派に近く、ビルの遠近感をギクシャクさせた心理描写が巧みに取り入れられていました。「ケルジエネツの戦い」では、中世の壁画が動き出す面白さがあり、切り絵の手法が眼を惹きました。「キツネとウサギ」では、子ども向けの内容でしたが、装飾的な民衆芸術の要素を取り入れて、楽しいキャラクターを作り出していました。「アオサギとツル」では、お互いが気になる存在として求婚しては断ったり、後悔したりする2羽の交流が、緻密な線描と淡い幻想風景で描かれていました。日本の浮世絵や水墨画に着想を得たものと解説にあって納得しました。「霧の中のハリネズミ」は有名な作品で、霧の中を夢中で突進するハリネズミに観客は感情移入してしまい、道の途中で遭遇する神秘に満ちた世界を味わうことになるのです。多層のガラス面を使った手法が霞んだ独特の空気感を表現していました。最後の「話の話」は一貫したストーリーはなく、詩的で叙情的な映像を展開させ、断片の中に狼の子が狂言回しのように登場してきます。戦争の不穏な足音があったり、ノルシュテイン自身の自伝的な要素もあったりして、厚みのある表現になっていました。旧ソ連で生まれたノルシュテインはアニメーターとして世界のアニメ監督に影響を与えた人です。HD画質のデジタルマスターで作品を甦らせ、現在ミニシアターで上映していますが、滅多に接することのない貴重な機会だったと思っています。

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