我が家にあるナイーヴ・アート

私は20代の頃、幾度となくルーマニアに出かけていました。当時住んでいたウィーンで紀行作家みやこうせいさんと知り合い、ルーマニアの現存民俗の取材に同行させていただいたことが、ルーマニアを身近に感じる契機になりました。ルーマニア人にも友人が増えて、芸術や宗教のことを話題にする場面もありました。あの頃のルーマニアはソビエト連邦を中心とする東欧諸国として情報操作等が行われていた共産主義体制でした。秘密警察が私たちの後をつけてきたり、友人宅を訪ねるのにも不便を感じることが多々ありました。ルーマニア人が国外に出ることは大変難しかったはずでしたが、私が住むウィーンにルーマニアの友人がやってきた時がありました。物資が不足している国から来た客人だったので、ウィーンで精一杯歓待しました。彼は厳重に包んだ小さなガラス絵3点を私に渡してくれました。親愛の証だと言っていましたが、素朴なイコン(宗教画)でした。これが骨董価値があるのかどうかはわかりませんが、古い木造りの教会でよく見かけるイコンで、多くの村人から祈りの対象とされていたものかもしれず、由来は敢えて尋ねないことにしました。そのナイーヴ・アートと呼ぶべきイコンは、現在の我が家の玄関を飾っています。古材を使った木の額を自作して3点のガラス絵を並べて展示しています。すっかり我が家の顔になったガラス絵ですが、描かれているキリストや聖人は既に宗教観を超えて昔から我が家にあるような雰囲気を醸し出しています。

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