追悼 アンジェイ・ワイダ監督

ポーランドを代表する映画を数多く世に送り出したアンジェイ・ワイダ監督が90歳で他界したニュースが先日流れました。ワイダ監督の映画は私がかつて暮らしていたオーストリアのウィーンでよく観ました。私が20代の頃なので、もう30年以上も前になります。その頃のポーランドはソビエト連邦を中心とする東欧圏に属し、西側諸国から入国するにも厳しい審査がありました。「連帯」のワレサ議長(後の同国大統領)が台頭してきた時期で、そうした政治運動を覗いてみたいと思いましたが、旧チェコスロバキアやハンガリー、ルーマニアに行く機会があったにも関わらず、ついにポーランドには足を踏み入れずに帰国してしまいました。古都クラコウには行って見たいと思っていたのに返す返すも残念です。でもポーランドの美術や映画には大変関心があって、それがワイダ監督の映画をよく観た契機になっていました。政治色の強い内容でも、自由を謳い、自由のための闘いを追求していくワイダ監督の姿勢には、若かった自分の心にも響くものがありました。「地下水道」や「灰とダイヤモンド」は重い社会状況の中で右往左往しながら、自由への突破口を開こうとする人たちの生き様に心を打たれました。同時に反政府運動の空虚さが伝わってきて、何ともやるせない気持にもなりました。映画には検閲があって、ワイダ監督の作品はこの検閲に悩まされただろうことは想像に難くありません。「問題は検閲を容認するかどうかではなく、『検閲そのものを無効にしてしまうような映画を作ることなのだ!』とワイダ氏は著作で述べた。検閲は担当官が理解でき想像できる範囲にとどまり、本当の独創には及ばないと。抵抗の芸術家としての重い言葉だ。制約や緊張が芸術を鍛えた例の一つであろう。」(朝日新聞「天声人語」より抜粋)今後日本の映画館でワイダ監督の特集があるのでしょうか。もう一度ワイダ・ワールドに触れたいと思っているのは私だけではないと思います。

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