「旅の修道士は見た」雑感
2016年 10月 12日 水曜日
師匠である彫刻家池田宗弘先生は、真鍮直付けという手法で作品を作っています。人体はジャコメッティのように細長く引き延ばされて、そのシルエットがとても美しいと私には感じられます。これは量感を見るのではなく、人体や樹木等に切り取られた空間を見るものではないかと思います。そのため作られた樹木は枯れ木の場合が多く、枝が交差する雰囲気がとても良いのです。池田先生は風景描写のような一場面をよく作品化しています。軽妙洒脱なスケッチを見るようです。山本正道氏とは違う意味で、池田先生は風景彫刻を作られていると私は認識しています。今回、自由美術展に出品された「旅の修道士は見た」ではマントを羽織った修道士と対峙して、背に翼を持った悪魔が登場しました。最近、池田先生がキリスト教会にモニュメントを依頼された時に、制作費用を巡って神父とトラブルになりました。作品は完成に近づいていたため先生は大変困ったようです。契約書を取り交わしたにも関わらず、教会内部の勢力争いに先生が巻き込まれたように私は理解しました。最終的に決着はしたようですが、今も先生は納得していません。その頃、神父に悪魔が取り憑いたのではないかと先生は私に話していました。その神父がその後、病床に伏したこともあって、何か因果のようなことを感じずにはいられません。そこで新作の彫刻に二枚舌の悪魔が登場したのでした。悪魔も先生独特な細長い姿態をしていますが、どこか無骨です。先生が遭遇した人間の悲しい性、それを表現せずにはいられなかった彫刻家、新作「旅の修道士は見た」にはそんな制作動機があります。弟子が余計なことを書いてしまったかもしれません。それ以上書くと先生の逆鱗に触れるので、ここで止めておきます。