映画「あなた、その川を渡らないで」雑感

先日、橫浜のミニシアターでアンコール上映している韓国映画「あなた、その川を渡らないで」を家内と観に行きました。内容は小さな村で仲睦まじく暮らす老夫婦の生活を追ったドキュメンタリーで、夫は98歳、妻は89歳の夫婦でした。結婚76年目となれば、そろそろ介護が必要ではないかと考えてしまいがちですが、春には花をお互いに飾り合い、秋には落ち葉を、冬には雪を投げ合ってみたりして、この夫婦には生活を謳歌する茶目っ気たっぷりな日常がありました。その純愛さゆえ韓国でも有名な夫婦だったようで、監督はその実態を映像化するため、単身で夫婦の生活に入り込んだようです。老いが進み、咳が目立つようになる夫も、子どもや親戚が集まった時に、老いた親を心配して口喧嘩になる様子も、映像は坦々とその輪郭を追いかけていました。不幸な過去を夫婦が語る場面もありましたが、私はこの高齢まで夫婦が元気で生きてこれたことを思うと幸せそのものではないかと思いました。映画の主張したいことや、それを感じた観客が涙することもよくわかりましたが、私は感情移入が出来ずにいて、隣の席で泣いているご婦人には申し訳ないなぁと思っていました。家内も私同様あっさりとしていて、これは何だろうと心の自己分析をしてみたくなりました。まず韓国特有の溢れる情感に気持がついていけないのではないか、たとえば父がまだ存命なのに感謝を叫びながら泣きじゃくる子どもたち、あらゆる場面で吐露される情の脆さと激しさ、それが違和感になって、隣国の民族でありながら自分と異なる心の動きに戸惑ってしまったことが原因だろうと考えました。儒教が色濃く残る社会にあって、親兄弟を敬う姿勢が強調されているようにも感じました。日本も嘗てはそうだったはずですが、感情を表に出さない日本人固有の感受性と相容れないものがあるように思います。結果として頭で分かっていても、感覚的に今一歩近づくことができない隣国の文化を学べた映画であったと、私個人としてこの映画を解釈することにしました。

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