カサット絵画におけるジャポニズム

19世紀から20世紀にかけてパリで印象派が活気を呈していた時代に、日本の浮世絵等がヨーロッパで紹介され、その画面の構成や色彩の象徴化に感銘を受けた芸術家が多かったのは美術史が示すところです。横浜美術館で開催中の「メアリーカサット展」でも同時代を生きたカサットが、喜多川歌麿や鳥居清長の浮世絵に影響されて、10点組の多色刷り銅版画を制作していました。本展では10点全てが展示されていて、カサット流の単純化が本当に美しいと感じました。日本絵画は線の文化で、西洋絵画は面の文化であると自分は思っています。日本は線で囲んだ面を平塗りしていて、西洋は面に陰影を作って立体感を描きだそうとしています。そうした文化の相違をカサットは上手に取り入れて、美しい線を獲得していました。当時の潮流で、マネの「エミール・ゾラの肖像」やゴッホの「タンギー爺さん」は背景に浮世絵を配置し、浮世絵の模写を試みていましたが、カサットは一歩踏み込んで、日本の絵画要素をアレンジして自己表現まで高めているように思えます。居並ぶ高水準のカサットによる印象派絵画の中で、この銅版画連作にふと親近感を感じたのは日本人として当然の感覚かもしれません。自分はとりわけ「手紙」と題された版画が好きです。ほとんど浮世絵といってもいいくらいの構図と内容で味わい深い作品のひとつでしょう。女流画家らしい肌理の細かさを感じます。

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