手許に戻ったルーマニア鳥瞰図
2016年 7月 22日 金曜日
東京銀座のギャラリーせいほうでの個展に、紀行作家のみやこうせいさんが来てくれました。みやさんとは30年以上の付き合いで、最初に会ったのは1980年代のウィーン時代に遡ります。当時の私はウィーン国立美術アカデミーの学生でした。私の鄙びた下宿にみやさんはやってきて一宿一飯の恩義を彼に与えることになりました。それが契機になり、その後はあれよあれよと厚かましくも彼は我が家で多宿多飯となりました。その恩を感じてか、みやさんは私をルーマニアに誘い、一緒に本を出版しようと持ちかけられ、日本に何の伝手がなかった私は、彼の提案を呑むことにしました。それから、みやさんとルーマニアに行くこと数回、いやもっとあったかもしれませんが、当時社会主義国家だったルーマニアは、私たちの足取りを秘密警察が追ってくるような事態が頻繁にありました。みやさんは古来から残存する東欧の田舎の風習にカメラを向け、私は敬愛する彫刻家ブランクーシの足跡を訪ねる旅が始まりました。出版の話は1990年にやってきました。NHKブックス「ルーマニアの小さな村から」(みやこうせい著)でイラストは私が担当しました。溜め込んでいたスケッチや写真資料を使って、「マラムレシュ絵図」と「羊の季節」を水彩多色で、「マラムレシュ民家」をペン画で描き上げました。3点の見開きイラストを掲載した書籍が書店に出回ったのを今でも覚えています。その鳥瞰図3点が今日手許に戻ってきました。30年以上も前にスケッチをしたルーマニアの木造の民家や衣装や風俗、それをまとめ上げたイラストは私にとって懐かしく、またあの頃の生活を思い出させるような郷愁を誘うものでした。私は普段から旧作をあまり好ましく思っていないのですが、この鳥瞰図は独特の位置にあって疎かに出来ない迫力がありました。新作の並ぶ個展会場で、暫し過去と向き合った一日でした。
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Tags: ウィーン, スケッチ, ルーマニア, 個展, 写真, 散策, 書籍
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