「今日はマスクをつけよう」

表題は国吉康雄の絵画につけられた題名です。マスク(仮面)の魅力は、私も昔から憑かれていて、マスクが画題になる画家には一目置いているのです。たとえばベルギーの画家ジェームス・アンソール。アンソールは両親が観光客用土産店を営んでいて、そこで仮面を売っていたため身近にモチーフがあったようです。仮面や骸骨を描いた個性的な絵画は、20世紀当初の表現主義やシュルレアリスムに影響を与えました。国吉康雄も仮面を描いていますが、仮面をつけた人物はサーカスの道化師で、曖昧な表情を醸し出しています。これらを見て私は決して己を晒すことのない心理状態を感じます。仮面そのものも人の表情とは別モノで、何かを語っているように思えます。もともと魂がないところに魂を与える演出が人に摩訶不思議な雰囲気を与えるのかもしれません。橫浜のそごう美術館で開催されている「国吉康雄展」には表題の作品の他に「逆さのテーブルとマスク」「クラウン」「舞踏会へ」「ミスター・エース」(模写)がありました。大きな「クラウン」の修復作業の写真も展示されていましたが、私は小さめの「今日はマスクをつけよう」が気に入りました。「ミスター・エース」は仮面を外しかけた男の肖像ですが、「今日はマスクをつけよう」ではこれから仮面をつけていこうとする肖像です。仮面人生の導入とも言えます。社会的立場があって素顔を出せない自分をそこに投影するのは、些か短絡的かも知れませんが、私にとって妙に印象に残る作品であることに違いありません。

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