橫浜の「国吉康雄展」

橫浜のそごう美術館で「国吉康雄展」を開催しています。国吉康雄は戦中戦後を通してアメリカで活躍した日本人画家で、独特な作風で知られています。私は高校時代に国吉康雄のリトグラフと出会いました。描かれていたのは哀愁を帯びた女性像で、その原因が陰影にあると知って、当初はその陰鬱とも思える暗い画面に反発を覚えました。あまり好きではないと思っていたのが、大学時代に一転し、「クニヨシズム」と言われた作風が好きになっていました。初めはモノクロで接した国吉ワールドでしたが、そのうち油彩やグワッシュの色彩画を見て、独特な色彩の組み合わせが印象に残るようになりました。今回、そごう美術館で開催されている「国吉康雄展」の作風変遷を通した時代背景を探っていくと、アメリカ社会が直面している問題や、日系移民として国吉がアメリカ政府の反発を受け、アジア人種の脅威が席巻する中で、労働移民としてではなく、曲がりなりにも留学生としてアメリカに滞在しようとした意図も見え隠れしています。それでも奮闘の末、国吉はアメリカ美術界で地位を獲得しました。アメリカ人女性と結婚し、同地に骨を埋め、異文化の中で存在を示した画家は、今後日本ではどう扱われていくのか、私には興味の尽きぬところです。国際派の画家と言えば藤田嗣治がいますが、藤田が第二次大戦時に軍部と協力し、戦意高揚を図った戦争画を描いたことは、国吉には否認すべき出来事だったらしく、それを巡って二人が揉めたことがあったようです。「国吉は器が小さい」と藤田が自著に書いたようですが、国吉からすれば妻の国籍剥奪やら自身の個展におけるアメリカ人画商の国籍を超えた援助を考えれば、大きな問題だったと考えざるを得ません。ともあれ時代に翻弄され、異国の軋轢の中で辛酸を嘗めた画家は、今橫浜に舞い降りて、画風を余すところなく披露しています。

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