上野の「カラヴァッジョ展」

カラヴァッジョの肖像を描いた1枚の絵があります。見るからにアクの強そうな風貌ですが、没後に描かれたものらしいので、真実を伝えているものかどうか定かではありません。画家カラヴァッジョは、殺人の罪を犯したエピソードがあり、波乱の生涯を送った希有な画家と言えるかもしれません。東京上野の国立西洋美術館で開催されている「カラヴァッジョ展」には、教会に収まっていて移動不可能な絵画以外の、多くのカラヴァッジョの作品が集められていて、見応えとしては素晴らしいものがありました。カラヴァッジョには素晴らしい芸術活動の他にどうしても暴力沙汰に関するエピソードが付き纏います。「その画家は図体の大きな20歳か25歳くらいの不良青年で、黒いあごひげをほんの少しはやし、小太りで、まゆ毛は濃く目は黒かったです。黒い服を着ていて身だしなみはあまりきちんとしておらず、黒い靴下は少し擦り切れていました。前髪はとても伸びていました。」これは1597年の床屋の供述です。図録には「2週間ほど仕事をしたと思えば、剣を携え、従者を伴って、勇んで1、2ヶ月気晴らしに出掛けるのである。そして、球戯場を渡り歩き、議論をふっかけては、大喧嘩を引き起こすのを常とした。だから、彼と付き合うことのできる者は極めて稀だった。」とあります。また「1606年5月28日日曜日のこと、~略~数日前、トマッソ-ニ家がこの地区の顔役として大手を振っていることが原因で喧嘩をしたカラヴァッジョとラヌッチョは、この日の晩、決闘に及んだのである。ラヌッチョが倒れ込むと、カラヴァッジョは足(太腿)に致命傷を与えた。自身も傷を負った画家は逃亡し、ローマから消えた。~略~その後彼は逃亡と待ち伏せ、大胆な脱出に彩られた4年の亡命生活を送り、1610年7月18日にポルト・エルコレの病院で最期の時を迎えるのである。」という記述がある通り、カラヴァッジョの生涯は殺傷事件にまみれた波乱に満ちたものだったようです。しかし、芸術作品になると、逃亡生活をしていたと思えない静謐で荘厳な雰囲気が漂い、深い闇の中から立ち現れてくる物語に、暫し足を止めて見入ってしまうような表現力があります。絵画についてはまた別の機会に感想を述べたいと思いますが、たかだか画家として活躍した10年間に残した数々の作品は、今も鑑賞者の心を捉えて離さない圧倒的な魅力に溢れているのです。

関連する投稿

  • 平塚の「川瀬巴水展」 先日閉幕した展覧会を取り上げるのは、自分の本意ではありませんが、展覧会の詳しい感想を述べたくてアップすることにしました。画家川瀬巴水のまとまった仕事を見たのは、私にとって初めてではないかと思います。 […]
  • 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
  • 新宿の「モンドリアン展」 先日、見に行った東京新宿のSOMPO美術館で開催されていた「モンドリアン展 […]
  • 東京竹橋の「あやしい絵展」 先日、東京竹橋にある東京国立近代美術館で開催されている「あやしい絵展」に家内と行ってきました。ウィークディにも関わらず鑑賞者が多く、コロナ渦の影響もあってネットでチケットを申し込む方法は定着したよう […]
  • 甲斐生楠音「横櫛」について 先日、見に行った東京国立近代美術館の「あやしい絵展」では、日本美術史に大きく取上げられている有名な画家がいる一方で、マニアックな画家も多く、私が思わず足を止めた作品を描き上げた画家も、私には名に覚え […]

Comments are closed.