魂の在り処

「祈るときは合わせた二つの掌のあいだに、口惜しくて歯ぎしりするときは歯と歯のあいだに、悔いて顔をしかめるときは眉間、あるいは瞼のあいだに、魂はある。」これは朝日新聞に掲載されていた「折々のことば」欄にあった印象に残った一文です。筆者は鷲田精一氏で、現代フランスの思想家の言葉だそうです。魂とは何か、私は魂という語彙に敏感に反応してしまうのです。以前に読んでいた西欧の哲学書や、現在読んでいる精神分析に関する書籍にも魂が出てきます。宗教では洋の東西を問わず、魂は人間の精神を形成する重要な位置づけがなされています。「仏作って魂入れず」という諺もあるくらいで、何か肝心なものが欠けていることを言います。創作活動をしていると目に見えない何か不可思議なものの存在が気になります。作品が生命を宿したように見えるのは何故なのか、同じような作品でも形骸化を感じたり、技巧ばかりが目立って退屈なものに見えたりするのは何故なのか、人の感じ方でどのようにも取れるところを、誰が見ても心が打たれるのは何故なのか、自分には不思議でなりません。作り手から言えば、苦心したものにそうした魂が宿ると信じたいところですが、そうとも言えないのです。苦心して作ったものは空回りしていて、見ていて苦しいと感じる時があります。苦心した次にやってくるものに自然な流れを感じ、無理なく作品が出来上がることがあります。暫し見ているとその作品に魂が宿っていると感じるのです。魂とは精神がのり移ったもの、これは疑えないことかもしれませんが、その判断はどこからくるのでしょうか。それを認めるのも人の魂なのでしょうか。

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