映画「創造と神秘のサグラダ・ファミリア」について

私が家内とスペインのバルセロナを訪れたのは1981年だったと記憶しています。当時ウィーン国立美術アカデミーに籍があった私たちは、その夏にユーレイルパスを使って南欧に旅立ったのでした。目指したのはポルトガルの最西端でしたが、途中カタルーニャ地方の独特な美意識に触れたくて、バルセロナに降り立ち、ピカソやミロの美術館を見て回りました。もちろん建築家アントニ・ガウディの公園や教会、集合住宅もつぶさに見ていました。その中でも印象的だったのがサグラダ・ファミリアでした。当時既に正面の「生誕のファサード」の外観が出来ていて、4本の塔のうちのひとつに登ることが出来ました。この映画はガウディ没後のプロジェクトを、建築家や彫刻家や職人並びに宗教学者等のインタビューを基にして、その進展を克明に追っていて、現在進行形での内外の雰囲気を知ることが出来ました。私たちが訪れた頃より工程は遥かに進んでいて、実際に聖堂内部にある植物が群生しているような天井や抽象的な「受難のファサード」が見てみたいと思いました。完成までに300年かかると言われていたのを、現代の3D構造解析技術やコンピューター数値制御の石材加工機など先端のIT技術によって2026年に完成すると言われています。1981年に見たサグラダ・ファミリア、その時私たちは死ぬまでには完成が見られないと諦め、もうここに来ることもないと思っていたのですが、事情が変わりました。もう一度カタルーニャに行きたい、進化し続ける建築という独特で途方もない造形に触れたいと思い始めるようになりました。サグラダ・ファミリアは祈りの空間であると同時に、創作への刺激を続ける芸術の殿堂であろうと私は思っています。

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