塊から一面的なものへ
2015年 11月 13日 金曜日
現在、葉山の県立近代美術館で展覧会を開催中の若林奮先生には、「地表面の耐久性について」と題する野外展示された大きな彫刻作品があります。まさに地表面に張りついた鉄の作品で、地中からその表面が現れた様相を呈しています。図録の一文を引用します。「若林によれば『(70年代)万博以后、かたまり(量塊)としての彫刻から表面的=一面的なものへ興味が移行した』という変化には、エジプトやフランスでの体験が深く影響しているからだ。例えば、太古の壁画が、線刻や絵具で『幾重にも層になった重ね描きが形成されている』ことに(若林は)気づいた~以下略~」(朝木由香著)とありました。これは大学での教職受講生への講義のための草稿だそうで、彫刻を広義に捉え、立体としての考え方を根本から覆す思考が見て取れます。その結果、地上と地下の境界にある地表面が主題となった「地表面の耐久性について」という作品が生まれたようです。大学の講義に使ったとなれば、美術を学ぶ学生相手にどんな授業展開があったのか、立体そのものの認識に理解が覚束ない学生にとっては難解な課題が与えられたと考えられます。これは立体表現を形而上の哲学として扱う用意がなければ、講義を聴いても謎が深まるばかりでしょう。立体とは何か、それを取り巻く空間をどう解釈するべきか、それが把握できた時に、立体の一部を提示することで、私たちが普段眼にする風景とも自然とも呼べる表層としての視界が出現すると若林先生は言いたいのではないでしょうか。つまり、私たちにはモノの全てが見えていない、見えているのは表面的な一部であるというわけです。それなら彫刻だって一部が見えていたらそれで充分ではないか、そこで一部より全体を洞察するのが、日常生活に見られる自然な状態なのではないか、そんなことを考えて自分は若林作品を測る思索の物差しを想定しています。まさに塊を覆い隠して氷山の一角にする試み、一面的なものへの興味に移行したのは、これから晩年にかけて若林ワールドが一面的作風以降、人間と自然との関わりの中で彫刻が大きく展開していく導入部にあたっており、一面的作風はさらにスケールの大きな世界に拡大していく、まさに前哨戦に過ぎないと自分は考えるようになり、そこから風景を切り取ったような庭の作品が生まれていくのではないかと考察する次第です。