映画「セッション」について

過激で人権蹂躙な言葉が師匠から発せられ、それに砕かれることもなく自分を追い込んでいく、何があってもそこに立って演奏していたいという執念が彼を一流の演奏者に育て上げていく、ライバルが現れてもそれを打ち負かす技量をつけて、己の限界を超える練習に没頭する、容赦ない言葉がさらに彼を追い詰めていく、彼には余裕がない、彼女とのデートでも頭の中は演奏のことで一杯だ、演奏をしくじっても、その座をライバルに奪われようとも彼は諦めない、興奮のあまり師匠を殴りつけても、死に物狂いで目標を達成しようとする…、そんな感想を映画「セッション」を観て持ちました。ミニシアターで上演される映画は大変刺激的で、究極を表現するあまり娯楽性は少ないと思えます。でも、自分も表現者として生きようとしているので、強固な意思だけを繋いでいく「セッション」は自分にとって本当に面白い映画でした。胡弓の演奏をやっている家内も、これは面白かったらしく、映画を見終わった後、饒舌に感想を語っていました。もちろん映画の演出なので嘘臭い場面もありました。それでも表現上これは了解と思える場面でリアルとフィクションのギリギリの鬩ぎ合いが緊張を生むこともあります。映画の面白さに巻き込まれていく過程で、何を訴えたいのか、何を主張しているのか、無駄のない展開の中で浮き彫りにされる動機に、自分を投影しつつ、共感したり反発したりする瞬間があります。そこに小粒でもピリっとした作品に出会えた喜びがあるのです。今後もこうした作品に出会えることを期待して、シネマジャック&ベティを後にしました。

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