留学したばかりの頃…

「小さい自己中心的の主観で軽々と批判し去ることは十分謹んで、兎に角すばらしいものがワンサとあるのだから、それにかぶりついて行く事が一番大事だと思ふ。」(保田龍門・保田春彦 往復書簡1958ー1965 武蔵野美術大学出版局)は保田龍門氏からご子息の春彦氏に宛てた手紙の一文です。本書を読んでいて、実父からの助言を羨ましく思いましたが、自分も同じような助言を手紙にしていただいたことがあります。自分の留学の手続きをしていただいた海外駐在員の方からの指摘でした。彼は商社マンでありながら音楽や美術に造詣が深く、私の若く拙い言動を丁寧に正してくれました。私が留学したばかりの頃、南独で見た古城の豪奢過ぎる装飾を批判した手紙を日本に送ったところ、まだ欧州の何たるかが分からないうちに軽々とした意見を言うものではないと諭してくれました。それが有り難かったと気付いたのは何年も経った後で、自分の感覚が徐々にリセットされて、異なる文化を受け入れる態勢が出来た頃でした。「往復書簡」を読んで、そんなことを思い出しました。

関連する投稿

  • 「言語都市・ベルリン」を読み始める 「言語都市・ベルリン」(和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田佳子共著 […]
  • 「現在の芸術と未来の芸術」について 「現在の芸術と未来の芸術」「構成派研究」(村山知義著 […]
  • 舞台・ベルリン ドイツの第二次大戦の話ばかりブログで書いていますが、表題の本「舞台・ベルリン〜あるドイツ日記1945/48〜」は、1985年自分がウィーン生活を切り上げて帰国した頃に読んだものです。ウィーン生活がま […]
  • 映画「フジコ・ヘミングの時間」雑感 横浜のミニシアターにはレイトショーがあって、仕事帰りに立ち寄れる時間のため、映画を容易に楽しめることが出来るので重宝しています。独特な音楽観を持つピアニストのフジコ・ヘミングは、以前テレビで紹介され […]
  • 若かりし頃の貧乏旅行 「保田龍門・保田春彦 […]

Comments are closed.