「若林奮 仕事場の人 展」

10年前に逝去した彫刻家若林奮は、今も立体やドローイングで自分を魅了し続けています。先日行った多摩美術大学美術館での「若林奮 仕事場の人 展」は生涯の中で仕事場を移動する毎に制作内容が展開していった様子が伝わりました。どんな芸術家であれ制作現場という環境と制作内容が無縁ではない証拠です。自分が若林先生を大学構内で見かけた時期は小金井に仕事場を持っていた頃で、鉄を加工した代表作を作り出していた時代かなぁと思っています。当時の友人が若林先生の仕事場の近くに下宿していて、若林先生が日々朝から晩まで仕事場に籠って制作していると話していました。大学に顔を見せる時以外は、全て制作に時間を充てている若林先生を凄いと感じた瞬間でした。若林ワールドは独特で難解とも思える思索が潜んでいますが、個展に足繫く通ううちに意図するところが少しずつ伝わってきました。作品はどれも鑑賞者のために作っているのではなく、思索の自己確認のために作っているように思えました。全て制作に時間を充てていることを凄いと前述しましたが、若林先生にとってはそれは自然なことで、展示を意識することなく空間や物質に対峙して自分を深めていくことが日常なのだと思いました。自分も工房で陶彫と向かい合っていると、全てのことを忘れ、作品が空間の中に存在するモノとして意識し始めて、次第に感覚が研ぎ澄まされていくのを感じます。やがてじっとして動けなくなる時間が立ち現れてきます。作品の意図さえもどこかへ消えて、自分が作品と同化するような瞬間があります。工程も計画もなくなって自分の行為した痕跡だけが眼の前にある不思議な時です。自分の嫌な感覚や認めたくない意識が現れて衝動的に眼の前のモノを破壊したくなる時です。はっと我に戻ると、あれは何だったのか、果たして狂気かと思ったりしますが、自己に向き合うとはこんなことなのかもしれません。若林先生の作品を見ていると、そうした自分への問いかけが始まります。それらを全部含めて自分を魅了し続けている若林ワールドと言えそうです。

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