ルイーズ・ニーヴェルスンの黒い彫刻

先日出かけたDIC川村記念美術館「BLACKS展」に15点もの作品が展示してあったルイーズ・ニーヴェルスンは、自分がかなり前から注目している女流彫刻家です。自作と似ているとすれば、全体に黒い色彩を施して箱型に詰め込んだ半立体の彫刻という外見だけですが、その外見ゆえに自作の展示の仕方に利用できるところが数多くあります。「BLACKS展」では照明を落として、しかも部屋一面を黒い壁にして闇の演出をしていました。そこに黒い作品が置かれ、かすかな照明が当てられた雰囲気は、深遠の中から立ち上がる静謐な宗教性をもったオブジェに見えました。またひとつひとつが棺のようにも見え、生と死を鑑賞者に考えさせる装置であるかのような趣もありました。箱に入れられた部品をよく見ると、椅子の脚を初めとする諸々の用途に使われたもので、そうした廃品を寄せ集めて、彫刻として永遠の命を与えている言わば再生芸術です。廃物を再生させる手段が全てを黒く塗装すること、作品が置かれる場の演出をすること、それにより不可思議な雰囲気が現れ、お馴染みのニーヴェルスンの世界が登場するのです。「私が黒を使うようになったもともとの理由の一つは、形をよりはっきり見せるためでした。黒が一番強く、そして明確であったからです。」とニーヴェルスンは述べています。つまり形を形として認識させるために素材感を消し、色彩を消し去るという訳です。「BLACKS展」でニーヴェルスンのまとまった作品群が見られたことは本当に良かったと思っています。

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