散策から学ぶこと

先日ドイツから届いた電子メール。それで思い出したことが数々あります。ドイツに住んでいる先輩も当時が懐かしいと言っていますが、自分も同感です。先輩夫妻が来る前から自分は単身でオーストリアにいて、慣れない一人暮らしをしていました。おまけにドイツ語も儘ならず美術アカデミーの講義もわからなかったので、ウィーンの旧市街をウロウロと歩き回っていました。環状道路に囲まれた旧市街は古くて謎めいた路地が多く、磨滅して凹凸になった石畳を何時間もかけて散策しました。当時は寂しいような虚しいような複雑な気持ちで散策をしていましたが、今から思えば散策で何気なく目に触れた光景が、現在の作品構想に一役買っていると言っても過言ではありません。交差しつつ視界を遮断する壁には、時折バロック彫刻による柱やレリーフがあって、中世の佇まいを残しているのが印象的でした。夕暮れになるとバロック建築群は自分が歩く目前に魔物のように立ち塞がり、バタ臭い文化を漂わせているのでした。この堅牢なる都市空間の中で、自分はまるで草藁のような湿った軟弱さをもち、ガラス窓に映った自分は、黄ばんだ肌とのっぺりした風貌をもつ東洋人そのものでした。そんな散策は自己造形イメージ蓄積の恰好な場であったと述懐しています。学生ビザで5年間ウィーンに暮らしましたが、旅行では得られない日々の空気感や古い石造校舎に漂う重厚な雰囲気が今も忘れられません。

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