暮らしの中の造形

20代の頃、5年間の滞欧生活で感じたことは、暮らしの中に取り入れられた造形全般が、生活を豊かにし、心に余裕を与えてくれることでした。それは西洋伝統の空間装飾に限らず、現代的な生活にも当てはまり、とりわけ当時訪ねたオーストリア人彫刻家宅の真っ新な住居空間には感動すら覚えました。自分の生育文化を考えるに、暮らしの中に取り入れたい造形はどんなものか、帰国後に思いを巡らせました。大正末期に興った柳宗悦、濱田庄司、河井寛次郎らの民芸運動に注目したのはそんなことが契機になっています。同じ時期に栃木県益子に出かけ、濱田庄司の陶芸の美しさに魅せられました。陶芸は海外にいた時から彫刻の材料にしたいと考えていたので、その素材感をまず自分の生活に取り入れようとしました。あの頃買い求めた器の釉薬の流れが、J・ポロックやS・フランシス等のアメリカ人現代画家の作品を彷彿とさせると感じました。自宅の家具も飛騨で作られているものを買い求め、費用が嵩むのを承知で、少しでも暮らしの中に気に入った造形を取り入れようとしました。しかしながら民芸調の家を建てるのには経済的に無理があって諦めざるを得ないこともありました。今でも益子あたりにある石造の蔵を見ると何とも言えない良い気持ちになります。暮らしを造形的に豊かにする努力、これは生涯続けていきたいものです。美を追求するなら作品だけでなく自分の身の回りにも気を配りたいと思います。

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