工業デザインから彫刻へ

「生きのびるためのデザイン」(ヴィクター・パパネック著 阿部公正訳 晶文社刊)を通勤電車の中で読んでいると、30年前の自分が甦ります。今でも当時と同じ気分になるのが不思議で、自分はまるで成長をしていないようです。ひとつわかったことは、その頃の自分は決して工業デザインに興味関心を失ったことではないということです。むしろ書籍の内容から読み取ることで、工業デザインのもつ社会的責任の観点から、市場心理や流行に惑わされることなく、本当の意味で人々に役立つデザインを探ることの難しさを痛感していたのでした。それが出来なければデザインをやる意義がないと思っていました。工業デザインに対する理想が自分の中で作り上げられていて、それが弊害となっていました。誤解を恐れずに言えば、それだから彫刻に逃避したわけではないと一方では考えていました。言い訳がましく聞こえますが、デザインと正対する制約を受けない造形の何たるかを知りたいと本気で思っていました。彫刻は人の直接役立つものではないけれど、美的価値観を揺さぶる造形を、その思索と共に具現化しようとしたことが契機になって、工業デザインから彫刻へ180度の転換をしていったのでした。現実生活の中で生きるデザインと精神世界の中で生きる彫刻。生活の糧になるものと心の糧になるもの。2つの領域はそんな極端なものではないにしろ、自分は30年前に確かな足取りで彫刻の道を歩き出しました。それが良かったのかどうか、「生きのびるためのデザイン」を読みながら確認作業をしている30年後の自分がここにいます。

関連する投稿

  • イサム・ノグチの幼少期について 「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 […]
  • 外出自粛の4月を振り返る 今日で4月が終わります。今月は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、首都圏の外出自粛から全国的な規模による緊急事態宣言に移行した1ヶ月になりました。職場も在宅勤務が始まり、年度初めに恒例として行われ […]
  • 「螺旋の文化史」&読後感 「ヨーロッパの形 螺旋の文化史」(篠田知和基著 […]
  • 「石を聴く」を読み始める 「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 […]
  • 8月の制作目標 今月、職場では休庁期間を設定し、夏季休暇を取り易い状況を作っています。私も例外ではなく、今月は旅行も創作活動も共に邁進させていきたいと願っています。まず陶彫制作ですが、全体の計画として屏風の形式を採 […]

Comments are closed.