相馬黒光と荻原守衛

フランスのシュルレアリスムから日本の近代美術の夜明けへ。現在読んでいるものがアンドレ・ブルトンから一転して、明治・大正を生きた女性の伝記に変わりました。「新宿中村屋 相馬黒光」(宇佐美承著 集英社)です。自分が塑造を学び始めた頃、明治を生きた彫刻家荻原守衛に心酔していました。荻原守衛の代表作「女」は日本美術史に残る名作ですが、その背景を知りたくて当時は「荻原守衛」(林文雄著 新日本出版社)や「彫刻真髄」(荻原守衛著 中央公論美術出版)を繰り返し読んでいました。その中に登場する相馬良(黒光)という人物が気になっていて、ようやく30年経った今になって相馬黒光なる人物の伝記を読もうと思い立ったのでした。新宿中村屋は、自分の学生時代にはまだ現在のような店構えではなく、階上の喫茶室に行くと相馬黒光と交流のあった画家や彫刻家の作品が展示されていました。ベーカリーの上がギャラリーになっている雰囲気に釣られ何回となくここを訪れていました。長野県穂高の碌山美術館にも何度も足を運び、新宿中村屋そして相馬黒光と荻原守衛の浅からぬ因縁に思いを馳せていました。映画にでもすれば面白いのに、と当時は思っていました。今までは荻原守衛側から見た黒光像、そして今は相馬黒光側から見た守衛像といった比較検討ができて楽しさは倍増しています。相変わらず短い通勤時間の中で少しずつ読んでいますが、ブルトンの伝記よりは速いペースになっています。学生の頃から慣れ親しんだ明治・大正を彩った芸術家が登場するせいかもしれません。

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