「空海と密教美術展」感想

表題の展覧会に開催2日目の平日に行きましたが、既に混雑していて仏教美術に対する人々の関心の高さがわかりました。ひと昔前であれば、日本は西洋美術一辺倒で、東洋美術が省みられる機会は少なかったように思います。こうして私も含めて鑑賞者が大挙して訪れるのは、博物館側の企画力、宣伝力等の努力だと思いますが、我が国の文化を誇りにできることは大変喜ばしいことだと考えます。確かに東京上野の国立博物館平成館で企画される国宝級の作品ばかり揃えた大掛かりな展覧会は魅力的です。今回の展示の中で、自分が注目したものは「帝釈天騎象像」でした。京都の東寺では一番隅にあって見落としがちな仏像ですが、照明にくっきり浮かび上がった「帝釈天騎象像」は、惚れ惚れするほど美しく、帝釈天の表情は自然で人魂が乗り移ったような印象を持ちました。象のカタチは幻想に満ち、その象徴性故に豊かな造形となって、全体の生々しさを抑えていました。これは仏像全体に言えることですが、仏師たちの技が西洋彫刻の量感に通じ、さらに一歩踏み込んだ表現の饗宴は、時代を超えて私たちに訴えてくるものがあると感じました。自分はこうした展覧会では学問的な捉えができず、彫刻制作者の眼でしか語れないのですが、書簡も多く展示されていたので史学に精通していれば、さらに感動を呼ぶものがあっただろうと察します。いろいろな要素を含んだ展覧会だけに、彫刻だけでは済まされない鑑賞の仕方もあって、そうした自分の不勉強さを露呈してしまう結果にもなりました。

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