上野の「写楽展」

東洲斎写楽は謎の多い画家で、作品よりも正体探しに興味が移りがちな絵師です。寛政6年から7年のたった10ヶ月の間に現在確認されているだけでも145点の作品を作り出し、その後忽然として姿を消したことが謎めいて、それが写楽という存在にさまざまな憶測を与える結果になっています。自分は写楽のそういった諸説よりも、眼の前にある浮世絵を通して写楽を知りたいと考える一人です。ひと目でわかる写楽の個性、それはデフォルメされた歌舞伎役者の表情、クローズアップした顔です。現代的な面白さを感じているのは私だけではないはずです。確かに見得を切った役者の表情はこんな印象を齎せます。画面構成もその広い面割ゆえ現代絵画のような空間を感じさせます。上野の東京国立博物館平成館で開催されていた「写楽展」は、浮世絵特有の渋みはなく、むしろ荒唐無稽な美を喜んだ当時の庶民の懐の深さが見えて、こちらも思わず楽しくなってきます。ユーモアやダイナミズム、そして抽象性。日本人として美しさや新しさを保ちながら、東洲斎写楽のような作風を時代が認めてきたことに誇りを持ちます。

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