上野の「写楽展」

東洲斎写楽は謎の多い画家で、作品よりも正体探しに興味が移りがちな絵師です。寛政6年から7年のたった10ヶ月の間に現在確認されているだけでも145点の作品を作り出し、その後忽然として姿を消したことが謎めいて、それが写楽という存在にさまざまな憶測を与える結果になっています。自分は写楽のそういった諸説よりも、眼の前にある浮世絵を通して写楽を知りたいと考える一人です。ひと目でわかる写楽の個性、それはデフォルメされた歌舞伎役者の表情、クローズアップした顔です。現代的な面白さを感じているのは私だけではないはずです。確かに見得を切った役者の表情はこんな印象を齎せます。画面構成もその広い面割ゆえ現代絵画のような空間を感じさせます。上野の東京国立博物館平成館で開催されていた「写楽展」は、浮世絵特有の渋みはなく、むしろ荒唐無稽な美を喜んだ当時の庶民の懐の深さが見えて、こちらも思わず楽しくなってきます。ユーモアやダイナミズム、そして抽象性。日本人として美しさや新しさを保ちながら、東洲斎写楽のような作風を時代が認めてきたことに誇りを持ちます。

関連する投稿

  • 週末 久しぶりに東京の美術館に… 大学の先輩で銅版画をやっている人が、東京銀座で個展をやっています。その人の娘さんが漆工芸をやっていて、彼女も東京銀座の別の画廊で個展をやっています。親子とも同じ時期に個展を開催しているので、週末を利 […]
  • 東京駅の「メスキータ展」 サミュエル・イェスルン・デ・メスキータは20世紀初頭に活躍したオランダの画家・版画家・デザイナーで、ユダヤ人だったためにナチスドイツの強制収容所で家族諸共処刑されています。彼がオランダの美術学校で教 […]
  • 横浜の「北斎展」 横浜のそごう美術館で「北斎展」が開催されています。私は外会議で関内に行った昨日の夕方、「北斎展」を見てきました。関内ホールの帰り道になる横浜駅に美術館があるというのは大変都合が良く、ちょっと得をした […]
  • 横浜の「駒井哲郎展」 昨日、横浜のみなとみらい地区にある横浜美術館で開催している「駒井哲郎展」に行ってきました。副題を「煌めく紙上の宇宙」としていて、銅版画のパイオニア的存在だった故駒井哲郎の大掛かりな回顧展になっていま […]
  • 横浜の「イサム・ノグチと長谷川三郎」展 昨日、会議の合間を縫って、横浜の桜木町にある横浜美術館で開催中の「イサム・ノグチと長谷川三郎」展を見てきました。本展は「変わるものと変わらざるもの」という副題がついていて、日本古来の伝統文化とモダン […]

Comments are closed.