シュルレアリスム時代のジャコメッテイ

国立新美術館で開催中の「シュルレアリスム展」に出品されているアルベルト・ジャコメッテイの彫刻は、ある意味で自分の眼には新鮮に映りました。ある意味で、と言うのはジャコメッテイと言えば、全てを削ぎ落として細くなった人体塑造で知られる彫刻家だからです。固定観念があったせいか展覧会場でシュルレアリスム的な形態をもつジャコメッテイの彫刻を見た時は、まったく別人ではないかと思ったほどです。確かに図版などでジャコメッテイのシュルレアリスム時代の作品を知っていましたが、実物を見るのが初めてだったので驚いてしまいました。ブロンズに金色の錆付けを施した作品には、異様なエロティズムと原初的な雰囲気が漂っていました。「喉を切られた女」と題する床に這ったようなオブジェは、カマキリをモティーフにした何とも不思議な作品です。ジャコメッテイが塑造による独自な世界に入る前の世界観が垣間見えて、シュルレアリスム的オブジェとして、その頃にもう頂点を迎えていたのではないかと思えました。それは作為に満ちた造形で、鑑賞者に見せるために作り上げられた世界がありました。そこから脱して現実を追求する姿勢が現れて、見せる造形から思索する造形、つまりあの細くなった人体塑造に変貌したように思えます。求道者として、いつ終わるともわからない造形の継続。それが現在見られるジャコメッテイの作品なのだと思いました。

関連する投稿

  • 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
  • 「美術にぶるっ!日本近代美術の100年」展 東京竹橋にある国立近代美術館全館を使って大がかりな展覧会が開催されています。「美術にぶるっ!」というキャッチコピーが目にとまったので見てきました。いわゆる所蔵作品を選抜した展示で、学芸員の企画力と頑 […]
  • 週末 制作と鑑賞の狭間で… 自分の制作には思索あり、他の作品の鑑賞もまた思索あり、で制作時間に追われているのは重々承知の上で、今日の午後は美術館に出かけてしまいました。午前中は午後の時間を空けるため、木彫の作業に集中力をもって […]
  • 世田谷の「佐藤忠良展」 今年99歳の彫刻家。70年以上にわたって彫刻一本でやってきた人に羨望を覚えるのは私だけではないと思います。自分だって可能性無きにしもあらず、と自分を奮い立たせたい心境です。彫刻家佐藤忠良は、彫刻を始 […]
  • 夏季休暇 美術館巡り 今日と明日の2日間夏季休暇を取っています。先週の2日間の夏季休暇は菩提寺の墓参りと長野県麻績にいる彫刻家池田宗弘先生宅にお邪魔して2日間を過ごしました。今回の夏季休暇の予定では、今日は都心の美術館巡 […]

Comments are closed.