作家不在の工房の存在感

ロベール・ドアノー写真集「芸術家たちの肖像」の中で、工房だけが撮影されている頁があります。そこに作家はいません。ただし、文章で作家の存在が示されています。「そこはヴォージラール通りの裏手にある行き止まりで、緑が好き放題はびこっていた。アーティストたちのウサギ小屋。いわばつくりかけに見えなくもない様式のアトリエが苗床のように植わっている路地だった。~略~」(ロベール・ドアノー 文・堀内花子 訳)自分のブログにも書いたことがあるコンタンティン・ブランクーシの工房です。自分が見たのは、再現されたブランクーシの工房で、パリのポンピドー・センター前の広場にありました。撮影されたのは実際の工房で、1960年3月9日の撮影となっています。ちょうど50年前の今日の日付です。当のブランクーシに迎えられ会話も交わしているのに、どうして作家が写っていないのかよくわかりません。工房の内部は、ありのままの素材と作りかけの作品が置かれ、あたかも自分がそこで何かしているような錯覚に陥ります。ブランクーシの工房は、自分が見たのが再現された工房だったとしても、目に焼きついています。それが自分の工房が欲しいと思った最初の動機だったのかもしれません。

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