「瀧口修造全集」を紐解く

先日読んだ「老人力」(筑摩書房)から一転して「瀧口修造全集1」(みすず書房)を紐解きました。軽妙洒脱な「老人力」と、幾重にも重なった深い洞察に裏づけされた瀧口修造の論文集。あまりにも違う世界を描いても、それを読んでいる自分には不思議と違和感はありません。「老人力」の赤瀬川氏は前衛芸術を体現した人で、その運動の仲間に瀧口氏の薫陶を受けた人がいたりするためかもしれません。あるいは赤瀬川氏と瀧口氏の接点がどこかにあるようにも思えます。瀧口修造は美術評論家であり、詩人であり、シュルレアリスムの理論(翻訳も含めて)を提唱した我が国の第一人者です。自らもアート制作を試みています。J・ミロやA・ブルトン等の交流もありました。これほど魅力的な仕事をした人がいるでしょうか、もう少し世代が近ければ自分は何としても瀧口修造に会いにいったと思います。夏に読むはずだった著作集を手に入れて、ようやく自分は瀧口修造の全貌に触れようとしています。しばらくは重い書籍を抱えて通勤電車に揺られる日々が続きます。瀧口修造が語る芸術家の作品を頭に描いて、その論考に触れるのは自分にとって大変幸せな時間です。

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