世紀末のアパート

21世紀の現在から言えば、20世紀末も19世紀末も同じ世紀末となります。表題は19世紀末を指しています。ひと昔もふた昔も前のことですが、この時代が情緒として生きている街がウィーンなのです。ウィーンは1980年から5年間自分が暮らした街で、カッコよく言えば自分の青春の面影を残す街でもあるのです。以前のブログに、今日取り上げる「マジョルカ・ハウス」のことを書きました。愛読書「奇想遺産」に掲載されているので、再び思い出した次第です。「これまで人間が作った建築のなかに自分たちの求める真実がないと知った若者たちは、過去や異国といった外に探すことをやめ、目を人間の内部に向けた。自分の意識下に地下水のように溜まる造形世界をおそるおそるのぞきこんだ。花が見えた。生殖、成長、死、再生といった生命現象のしるしとして紅色の花が咲き乱れ、渦巻く蔓が伸びていた。」(藤森照信 著)という解説がありました。マジョルカ・ハウスの作者で建築家のヴァーグナーが、同時代に生きた画家クリムトらと過去の様式から分離を目指した革命運動が、今もウィーンにも生きていて、現在もアパートとして使われていることに驚きを隠せません。住んでみたかったと今になって思いますが、当時は爪に火をともす暮らしぶりで、そんな余裕はなかったなぁと振り返っています。

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