ジャコメッテイ・現実を掴む

ジャコメッテイの彫刻は、ムアからやや遅れて、図版によってその存在を知りました。細く削ぎ落とされた人体。大きめの台座から陽炎のように立ち、人の存在自体が無くなってしまいそうな表現。当時ムアばりの豊かな量感を求めていた自分にとって、初めジャコメッテイは関心のある作家ではありませんでした。そのジャコメッテイに興味を持ち始めたのは、日本人による書物によってでした。ジャコメッテイのモデルをつとめた矢内原伊作による著書を読んで、ジャコメッテイの真摯な制作姿勢に打たれてしまいました。ジャコメッテイが現実の空間を自分なりの解釈で掴むために、昼夜を分かたず奮闘し、作っては壊し、壊しては作る毎日を繰り返している様子が文章から伺えます。本人から見た立体を手前から後ろに至るまで、空間を正面から真っ直ぐに捉えようとして、あのように細くなってしまうようです。それは空間に関する新しい解釈であると感じました。量感を持たない彫刻表現に自分を向かわせた第一歩がジャコメッテイでした。

関連する投稿

Comments are closed.