「無名性の錬金術師」を読んで
2007年 7月 12日 木曜日
昨日に引き続き、種村季弘著「断片からの世界」に収められている美術評論で、今回はE・フックスに関するものです。ウィーン幻想派画家として国際的な名声をもつフックスは、ウィーンの多く画廊で銅版画を展示していました。これはハウズナーと前後して半年前のブログ(07.1.17)に書いています。この評論の中で興味をもったのは、ハウズナーとの比較です。ハウズナーの絵は「あくまでも自我への偏執から出発」していますが、フックスは「個性的自我を最初から厳密に排除して」いると書かれています。また、ハウズナーが「主観的象徴体系を展開してきた」のに対し、フックスは「客観的に祖述され、普遍的にすでになじまれている」象徴体系をもっていると比較しています。それはフックスの絵が聖書に基づき、とりわけ黙示録の象徴体系があるということです。風貌もハウズナーと違い、「ユダヤの家父長か預言者のような顔立ち」をしています。E・フックスとはウィーン滞在中にお会いできずにいましたが、郊外にあるO・ワーグナー設計によるアトリエは何度も見ています。恥を忍んで一度訪ねればよかったと今では後悔しています。
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Tags: ウィーン, 展覧会, 書籍, 版画, 画家, 芸術家
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