ウィーン美術アカデミーのボス

昨日ボスに纏わるブログを書いていて、ボスの絵との出会いを思い返してみました。1980年に自分はウィーン美術アカデミーに入学しています。でもその頃は、アカデミーから歩いて10分のところにあるウィーン美術史美術館で、ブリューゲルの絵に心を奪われていて、ボスのことはよく知らないでいました。そのうち自分の通っていた学校に付属美術館があるのがわかり、廊下の扉の向こう側に凄い作品がいくつも掛けられているのを知って驚きました。同時にボスの奇怪な作品も目に飛び込んできたのでした。それは「最後の審判」を描いたものでしたが、ミケランジェロとはまるで異なる世界で、妖怪や怪物がウヨウヨまかり出る何とも形容のしがたい絵でした。でも正直言うとワクワクする楽しさがこみ上げてきて、自分のゲテモノ好きの心をくすぐるのでした。これが中世に描かれたとは俄かに信じられず、この絵には現代に生きる自分の心を虜にする魔力が秘められていると思いました。それから頻繁にボスに会いに行きました。何といっても工房をでると、ひとつ屋根の下にボスがいるのです。こんな幸せは二度とありません。そのうちボスが、我が愛するブリューゲルの師匠であったことを知り、この時代のフランドル地方の絵画に対する自分の無知を恥じてしまいました。日本人の趣向として印象派やイタリアルネサンスに偏りすぎて、北方の優れた芸術家を今まで蔑ろにしてきたのだとこの時感じました。

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