ギュンター・ドメニクの銀行

かつて住んでいたウィーン10区のアパートから歩いて5分程度のファボリーテン通りに、エイリアンの棲家のようなメタリックな建物が出来ました。オットー・ワーグナーのような前世紀の建築群との調和を図った建築家がいる一方で、この建物を設計したギュンター・ドメニクは周囲とはまるで調和しない建築家のようでした。よくぞウィーン市民が受け入れたものだと思うくらい異様な雰囲気を放つ建物は、虫の甲羅のような有機的な外観をもった銀行でした。この銀行には自分の口座があったので頻繁に訪れました。個人的にはワーグナーみたいに好きになれなかったのですが、面白さは充分伝わりました。こんな建築があってもいいのではないかと客としては肯定しています。テーマパークにあってもおかしくない内部空間でも真面目に銀行業務が行われていました。こんな空間で働くのはどういう気持ちなんだろうと要らぬことまで考えてしまう銀行でした。

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