上野の「国宝 東寺」展

京都にある東寺には幾度か足を運んだことがあります。東寺の講堂に安置された21体の仏像からなる立体曼荼羅が見たくて、京都では東寺を度々訪れたのでしたが、講堂の中は薄暗がりで、その雰囲気だけを味わっていました。それでも魂の篭った仏像が群立する空間に圧倒されて、自分が厄払いを受けたような気持ちになるのが不思議です。上野の東京国立博物館で「国宝 東寺」展が開催されているのを知って、どうしても立体曼荼羅を博物館の照明の中で見たくて、先日行って来ました。展覧会の副題に「空海と仏像曼荼羅」とあって、この際曼荼羅のことも学びたいと思っていました。紙面の関係で密教や曼荼羅のことは別の機会に回しますが、今回は21体のうち15体が東京にやってきているので、大きな部屋に点在して展示してある仏像のことを書いてみようと思います。まずこの部屋に入ると、スポットライトを浴びたそれぞれの仏像の立ち姿に、何とも言えない緊張した空気を感じました。仏像をぐるりと回って見ると、意外にも後姿の何気ない美しさに気づきました。一緒に行った家内は仏像が身につけているアクセサリーの華麗さに惚れ惚れしていました。この立体曼荼羅を考案し実践した空海の思いを図録から拾ってみます。「空海は自ら曼荼羅のイメージを実現するために、須弥壇という空間の中央に大きな大日如来を、その四方に中型の如来を、その五仏に向かって右に中型の金剛波羅蜜菩薩、その四方に小型の菩薩、五仏の左には中型の不動明王、その四方に不動よりもやや小さい明王を配した。そして、四天王は明王に近侍しては全体のバランスが崩れて整然としないので、須弥壇の四方に置いた。ここで問題になるのが帝釈天である。『仁王経念誦儀軌』にしたがえば、四天王と帝釈天は五体で一つのグループとなるが、講堂では四天王は須弥壇四隅に置かれたので、帝釈天は余ることになる。そこで空海は、奈良時代より帝釈天と対となることがある梵天を加え、諸尊の整然とした配置を保ったのである。」(丸山士郎著)仏像の他にも私は仮面が大好きなので、舎利信仰にまつわる八部衆面や灌頂会に用いた十二天面などに興味関心を持ちました。東寺は1200年におよぶ歴史をもった古刹です。大陸から空海が携えてきた真言密教とは何か、「曼荼羅の仏は整然と森の木のように並び、赤や青さまざまな彩色が輝いている」(「遍照発揮性霊集」「笠大夫、先妣の奉為に大曼荼羅を造り奉る願文」)という空海の言葉にどんな意味があるのか、別の機会に考えてみたいと思います。

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