上野の「奇想の系譜展」

先日、東京の4つの美術展を巡った時、私が一番身近に感じた展覧会は、東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」でした。嘗て読んだ美術史家辻惟雄氏による著作「奇想の系譜」は、日本美術史に斬新な視点を与え、それによって江戸絵画が抜群に面白くなったことで、現在の「日本美術ブーム」を作り出したと私は思っています。最近の伊藤若冲の人気ぶりは大変なもので、都美術館の前で長蛇の列になって何時間も待った記憶が甦ります。その著作に登場する画家たちの作品を集めた展覧会となれば、私は必見と決めていました。図録によると今回取り上げた画家は8人になると書かれていました。「岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳ー六人の画家をとりあげたこの『奇想の系譜』は、以後の江戸時代絵画史研究、日本美術史研究に対して、決定的な影響を与えた。そして、本展はこの六人に加えて、近年とみにその再評価の機運が著しい白隠慧鶴、鈴木其一の二人を加えて企画したものである。」という日本画家8人衆は、私が中高の美術科の授業で習った覚えがない画家たちで、社会人になってから漸く知り得た摩訶不思議な世界観をもつ画家たちでした。大学生になった時には、私の頭の中は欧米からやってきた前衛運動が中心で、我が国の美術を振り返ることもなく過ごしていました。象徴主義や抽象絵画は西欧の専売特許ではなく、まさに足元にありと思ったほど我が国の奇想の画家たちは、私に豊かなイメージを与えてくれました。縄文土器の時もそうですが、誰かが新しい視点を与えてくれると、見過ごしていたものが現代に甦り、ハッとすることが多くあります。図録にこんな箇所もありました。「結論めいたことを言えば、『奇想の系譜』という本は”時限爆弾”だったのだと思う。辻氏が導火線に火をつけた1970年代から、それに注目する若い研究者たちが地道な調査を続けることによって、その火を絶やさぬようにしっかりと受け継いでいった。そして21世紀に至って、ようやく導火線から爆弾本体に火が届いて、現在の『若冲ブーム』『江戸絵画ブーム』『日本美術ブーム』が現出したのだと思う。」(引用は全て山下裕二著)これから爆破が連鎖し、次から次へと面白い世界観を有する作品が登場してくることを切に願っています。 

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