「近代美術史テキスト」読後感
2019年 1月 24日 木曜日
あっという間に読んでしまった「近代美術史テキスト」(中ザワヒデキ著 トムズボックス)は、私にとって極めて興味深かった内容があり、また手書きの文章から発する独特な感覚に、密かなメモ書きに似た雰囲気を感じさせる書籍でした。あぁ、これっていいなぁと思ったのは、第8章のフォンタナを扱った箇所で、イラストで描かれた画布に本当に切り込みが入っていたところでした。もうひとつは第13章「シュミレーション100%:ジェフ・クーンの『芸術?』」という箇所で、現在のアートが孕む課題をも含めた予見が、ここに示唆されているように思えます。そこを引用いたします。「クーンの『ピンク・パンサー』は芸術ではないと私は思います。クーンが今回”芸術として”提出したのは便器(デュシャンの作品)ではなく、ハイパーリアルな人形だったからです。精巧でカワイイ人形は世俗的なシアワセを演出するものです。クーンが明らかにしたのは、この今の時代にあっては芸術のシアワセより世俗のシアワセの方が説得力を持つということなのかもしれません。~略~『美術が不要になる日』がそのうちきっと来ると思います。あらゆる視覚表現はいずれ美術からイラストレーションにとってかわられることでしょう。クーンのピンク・パンサーが芸術であるとするならば、それは美術の”制度”を逆手にとった表現だったからです。私は美術という概念は、未視感の時代の産物である”美術の制度”によって支えられてきたものだと考えます。”美術の制度”とは未視感の視覚表現を追求するための場であります。そして既視感の時代にはこの制度はすでにナンセンスです。そこのところをうまくついたのが今回のクーンの『非芸術』だったのでしょう。」美術の存在を未視感と捉え、それを信じてずっと制作を続けていた私にとって、現在のアートの動きは気になるところです。いずれにしても面白い書籍でした。