フェルメール「牛乳を注ぐ女」について

画家フェルメールの「牛乳を注ぐ女」は世界的に有名な名画です。フェルメールの傑作はまだ他にもありますが、上野の森美術館で開催されている「フェルメール展」のラストを飾っていた「牛乳を注ぐ女」は、やはり自分の心を捉える傑作だったと改めて認識しました。フェルメールの部屋に入った途端、遠くから射貫かれたような構図と色彩の明快さ、小さい画面ながら圧倒的な光を放つ存在感につい吸い寄せられてしまいました。「牛乳を注ぐ女」は以前も来日していますが、今回は数々のフェルメール作品と並んで鑑賞できたので、本作の凄さに目を奪われました。図録から構図や光について書かれた箇所を拾います。「透視図法、光の処理、個々の描写対象の配置、これらはすべて慎重に考え抜かれている。女性像と机と右側の床にある木製足温器は、古典的な三角形構図を形成している。フェルメールは、透視図法の消失線を女性の右手の真上にある消失点に向かって集中させることによって、絵を見る人の視線をさりげなく絵の中心要素に導いている。カンヴァスのその箇所にある小さな穴は、フェルメールが17世紀のアトリエでよく行われていた方法を用いていたことを物語っている。画家は、消失点となる場所にピンを刺し、透視図法の消失線を定めるためにそこから絵の端まで糸を張ったのである。」安定した構図を得るために画家が工夫した痕跡が見えますが、美術史家の中には写真機の先駆けとなったカメラ・オブスクラを用いていたのではないかという説も聞かれます。その件に関して図録から引用いたします。「光の反射を観察するために、フェルメールはカメラ・オブスクラを使ったに違いないという説が唱えられてきた。フェルメールがこの機器をよく知っていた可能性は高いが、この《牛乳を注ぐ女》を描く際にカメラ・オブスクラを利用したとは考えられない。何よりも、光の斑点や飛沫はおもにパンやウールの布のような低反射素材上にあるが、これらはまさにカメラ・オブスクラでは感知されない部分なのである。」(作品解説より)この神がかった写実性はどこからくるのか、私はロダンの彫刻「青年時代」が本物から型を取ったのではないかという俗説と共通するものを感じてしまいます。芸術家の眼が、写実を捉える時の、肉薄していく対象に迫る魂を感じるのは私だけでしょうか。単に緻密に計算された写実絵画ならば、「牛乳を注ぐ女」の絵画的主張の強さは現れないと思っています。

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