某日の新聞の小欄より

自宅のテーブルに置いてあった朝日新聞の小欄「折々のことば」に気になった記事がありました。短いので全文を引用します。「味で見る人の評には、要を尽くしている割合に案外聴くべき所が少ないが、感じで敲かれるとどこか痛く身に応える所がある。」というのは陶芸家濱田庄司の一文です。その解説として鷲田精一氏が書いている内容を掲載します。「『味』とは作品の形や調子や模様といった細部の風合いを、『感じ』は全体の印象をいう。『味』はある程度まで狙って出せるが、『感じ』は違うと、陶芸家は言う。『味』に蘊蓄を傾ける粋人でなく素人の感想が怖いのは、『離れて自身の角度でぶつかって』いて、作家の知らない『未成の標準』を突きつけてくるから。」とありました。これは随想集「無盡蔵」よりの抜粋で、濱田庄司の陶芸を思い浮かべると成程と思えます。数多の作品を見て批評する人は、確かに知識が豊富なため、蘊蓄を語ります。そこで作家は得るものもありますが、その世界を知らない人が個人の感覚だけで訴えてくるものには、ハッとさせられることがあります。「未成の標準」というのはそのことを言うのだろうと思います。私の個展に来られた方は、実にさまざまな感想を述べていかれます。私はつい評論家や文筆家のコトバに耳を傾けてしまいますが、現代彫刻を初めて見た方の中に、本当に面白い感想を放つ方がいらっしゃって、私はドキリとすることも暫しあります。とりわけ私が嬉しかったのは幼児の反応でした。作品に登って遊びたいと駄々をこねる子に、芸術作品に触れてはいけないと叱る母。勿論その通りですが、全身興味が漲っている子に私は極上の喜びを与えられました。「自身の角度でぶつかって」くるなんて言い得て妙な表現だなぁと思いました。

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