生涯学習としての芸術活動

生涯学習とは何か、昭和56年の中央教育審議会答申を紐解けば「人々が自己の充実・啓発や生活の向上のために、自発的意思に基づいて行うことを基本とし、必要に応じて自己に適した手段・方法を自ら選んで、生涯を通じて行う学習」という定義があります。これは学校教育だけで学ぶことを終わらせず、生涯を通じて何かを学んでいこうとするものです。学校教育では学び方を教え、その方法を使って末永く学習に親しむことが意図されています。私が人生の主軸におく芸術は、まさにゴールが見えないので生涯学習と呼ぶに相応しい活動と言えます。私は大学で師匠から彫刻の概要と技法を教わりました。そこに己の方向性を見定め、精神性を高めていくのは自分自身なのです。人は何のために学ぶのか、前述した自己の充実・啓発や生活の向上のためと答申は謳っていますが、まずは自己満足ありきと私は考えています。自分を自分で満たしたい、その上で自己表現によって他者の心を動かしたい、これが芸術の意義であろうと思います。美の規範が狭かった時代は、サロンに集う人々の美的価値に左右されてきました。現代は美の規範さえ存在しているのかどうか疑わしい時代でもあります。そんな中で自分が信じる価値観を、生涯を通して追求するのが生涯学習としての芸術活動です。美術館やギャラリーに収まらず、地域社会で発信する表現もあります。自分の考え方を人々に投げかけて、一定の評価を得て、それを担保にしたい作家もいます。アイディアをその場限りで終わらせるのではなく、生涯を賭けて表現し続けること、私も含めて作家にとって芸術に生涯学習として関わっていければ本望ではないでしょうか。

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