白金台の「ブラジル先住民の椅子」展

東京白金台にある東京都庭園美術館は、アールデコ様式の装飾が美しい美術館で、そこで展示される作品と周囲の装飾がどのような関係性を持つか、それも楽しみのひとつとして味わえる稀有な空間を有しています。以前、世界各地の民族が作った仮面の展覧会があって、アールデコ様式と土俗的な仮面に不思議な緊張関係が生じて、とても面白かったのを思い出します。今回の「ブラジル先住民の椅子」展も絶妙な緊張関係の空間の中で、展示品が置かれていて楽しく拝見できました。木彫の丸彫りされた椅子に単純化された動物の形体がついているのは、どんな意味があるのでしょうか。図録から関連する言葉を拾ってみたいと思います。「古代社会や未開社会の王、呪術師、戦士といった主権を握る(あるいは主権者たることを目指している人)人々は、この獣の領域とさまざまな象徴をとおして特別な関係を持とうとしてきた。」(中沢新一著)とあるのは椅子に座る呪術師や首長は、尋常ならざる獣の力に触れて、人々に対して己の主権を演出する目的がありました。さらに「動物性と政治論を結ぶ普遍的で奥の深い諸問題に、知らず知らずのうちに観る者を触れさせてしまうところにある。」(同氏著)のが、この展覧会の面白さだと言っています。ただし、現代も作られている動物を模した椅子はどうでしょうか。獣と主権者が切り離された現代にあって、もはやそこに腰掛ける者がいないために椅子は丸みを帯びて、腰掛というよりアートに近づいています。美術館の新館に現在も継続して作られている新しい椅子が数多く展示されていました。日本の彫刻家三沢厚彦氏の作品を連想させる作品だなぁと思いました。

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