映画「フジコ・ヘミングの時間」雑感

横浜のミニシアターにはレイトショーがあって、仕事帰りに立ち寄れる時間のため、映画を容易に楽しめることが出来るので重宝しています。独特な音楽観を持つピアニストのフジコ・ヘミングは、以前テレビで紹介されていて興味がありました。映画は世界を飛び回る80代のピアニストの私生活を描き出し、その自然体が存分に発揮された映像でした。フジコ・ヘミングは60代でデビューを果たしました。その裏には苦難に満ちた特殊な事情があり、その全てが演奏活動に表れているように私には感じられました。父親がスェーデン籍のデザイナーであったこと、母親がベルリンに留学していたピアニストであったこと、フジコが留学を希望する時に、それまで無国籍であった事実を知ったこと、難民パスポートで母と同じベルリンに留学できたこと、30代の時にデビュー間近で左耳の聴覚を失う事故があったこと等、人生途中で夢を諦めていたとしても仕方がない状況の中で、フジコ・ヘミングは現在の国際的に活躍する舞台を築いたのでした。住居好き、動物好き、演奏にミスは多いけれど、魂を籠めた演奏は聴く人たちを魅了する、そんな彼女の思いや日常が描かれていて、映画の中では楽しい一面もありました。それでも、優れた芸術活動には一体何が大切なのかを映画は見事に抉り出し、私たちはそこに感銘を受けました。一緒に行った家内は邦楽器の演奏家なので、フジコ・ヘミングの生き方や演奏にはいろいろな思いが交差するらしく、感心するところと厳しい音楽評が入り混じった感想を述べていました。難聴を抱えるフジコは、オーケストラとの共演が難しい場面があり、演奏を開始するタイミングが掴めないところが映し出されていました。リサイタルならまだしも、そこが難しいところかなぁと感じました。私は80代の今も活躍するフジコ・ヘミングの姿に感心しました。私も晩年になるに従い、活躍の場が広がるといいなぁと願っています。引退など考える暇もなく、制作に埋没したい気持ちで一杯です。

関連する投稿

  • 喪中葉書を受け取って… この時季になると喪中葉書が送られてきます。自分の年齢を鑑みると、本人ではなく、その関係者が多いのですが、たまに親交の厚かった本人であったりすると残念でなりません。自分が世話になった人が亡くなり、喪中 […]
  • ウィーンからの懐かしいメール 1980年から85年となれば、今を遡ること30年前になります。オーストリアの首都ウィーンは地下鉄の交通網がシュタットバーン(市街電車)に取って代わろうとしていました。そんな頃に自分は市街から遠い10 […]
  • 「悲劇の誕生」を読み始める 「悲劇の誕生」(ニーチェ著 秋山英夫訳 […]
  • 横須賀の「加藤登紀子コンサート」雑感 先日、横須賀芸術劇場で開催された「加藤登紀子コンサート […]
  • シュナイダーシームセンの舞台 ギュンター.シュナイダーシームセンは様々なオペラの舞台デザインを手がけた人です。具象的な作風でしたが、スケールが大きく遠近法を巧みに用いた迫力ある舞台でした。カラヤン指揮による壮大なオペラにシュナイ […]

Comments are closed.