汐留の「ジョルジュ・ブラック展」

東京汐留にあるパナソニック汐留ミュージアムは、私にとって感度の高い企画展をやっていることが多く、交通の利便さもあってよく出かける美術館のひとつです。今回の「ジョルジュ・ブラック展」も絶対に見に行こうと決めていました。キュビズムの巨匠ジョルジュ・ブラックはピカソとともに20世紀絵画に革新を起こしたフランスの画家です。描こうとする立体的な対象物を、平面上に分割して再構成をするという手法は、発表当時は議論の的となりました。ピカソは既に知られている通り、キュビズム後も表現方法が次々に変わり、その都度大きな足跡を残しましたが、ブラックはキュビズムに留まり、この手法の論理的な帰結に至りました。ブラックの晩年期には「メタモルフォーシス」と名づけられた絵画以外の素材によって、三次元の半立体の作品を制作し、高い完成度を持つジュエリーや陶器、彫刻が生まれました。今回は「メタモルフォーシス」の日本初の本格的な展覧会のため、私は内心ワクワクしながら、汐留に出かけました。一度平面作品で確かめた構成を、実材を使って作り変える試みは、単なる置き換えとは異なる効果を齎せ、対象物の輪郭の追求が際立っていました。私の個人的な感想としては、ブラックはあくまでも平面性を追求した画家であり、彫刻家ではなかったと僭越ながら思ってしまいました。ブラックの彫刻作品は平面の延長上にあって、たとえばキュビズム彫刻を代表するオシップ・ザッキンとは空間の捉えが違うと感じました。ただし、「メタモルフォーシス」は美しい作品群であることに変わりなく、色彩や構成の楽しさや面白さが私の印象に残りました。ブラックはルーブル美術館での個展も叶い、幸せな生涯を送ったようです。前衛画家にしては数少ない恵まれた人生だったのではないかと思います。

関連する投稿

  • 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
  • アフリカ芸術との出会い 横浜美術館で開催中の「ルノアールとパリに恋した12人の画家たち」展の図録の中で、20世紀初頭のパリに集った芸術家たちが、アフリカ芸術に感銘を受けて、自らの表現の中にプリミティヴな生命を宿した造形を取 […]
  • 東京の展覧会を巡った一日 今日は工房での作業は止めて、家内と東京にある美術館に出かけました。コロナ渦の影響で最近ではネットによる予約が一般的になっていて、入館時間も決められています。今日は2つの美術館、3つの展覧会を巡りまし […]
  • 平塚の「彫刻とデッサン展」 先日、平塚市美術館で開催中の「彫刻とデッサン展」を見てきました。「空間に線を引く」と題され、著名な日本人彫刻家が集められた本展は、私にとって重要な展覧会であり、必ず見に行こうと決めていたのでした。ま […]
  • 週末 六本木・銀座・上野を渡り歩く 今日は東京の博物館、美術館、画廊を回ろうと決めていました。後輩の彫刻家が二科展出品、同僚の画家がグループ展参加、その他見たい展覧会があって、二科展とグループ展の日程が合うのが今日しかなかったのでした […]

Comments are closed.