アートの捉えについて

「アートと美学」(米澤有恒著 萌書房)は、美学者の立場からアートを論じようとしている書籍です。アートという現代を席巻している新しい概念を、私自身は積極的には使っていません。理由として、自分の中でアートに対する明確な考えが定まっていないからです。現在読んでいる「アートと美学」は、アートを知るための手がかりになればと思っています。アートは単なる芸術の外来語ではなさそうで、従来の芸術に新しい概念を齎せています。美術の枠では収まりきれなくなった思考表現が、アートとして括られていると考えられます。現代社会に対応する価値観を有する表現がアートというわけです。自分の名刺を作るときに、私には芸術家以外の立場として公務員管理職としての立場があって、こちらの方は社会的な名称が定着しているため、何の疑いもなく名刺を作ることができました。芸術家としては少々困りました。アーティストと呼ばれることに私は躊躇します。アーティストは結局何をする人なの?という曖昧さと気恥ずかしさがあって、私は彫刻家を名乗ることにしました。表現が彫刻だけに限らなければ造形作家、こちらの方がしっくりいきます。社会的な地位を持っているもうひとつの職業を表す名刺と造形作家の名刺、2種類の名刺を今も使い分けていますが、それでも造形作家の方が如何わしい印象を与えます。ましてやアーティストなど私には名乗れるはずがありません。怪しい活動家ともペテン師とも揶揄されそうです。これはアーティストというものが、あまりに多義多様にわたる職業を含むからではないかと思っているからです。もうひとつはカタカナ職業が嫌いという私の趣向にも原因があります。アートも同じで、ボーダーレスな表現を自分なりに咀嚼できない頑固者なのかもしれないと自分を分析しているところです。彫刻家ですよね、と人から言われると私は素直に頷きますが、アーティストですよね、と言われると、いいえ違いますと即座に否定してしまう私は気難しいのでしょうか。

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