映画「長江 愛の詩」雑感
2018年 3月 5日 月曜日
朦朧とした水蒸気が立ち昇る大河長江。文学青年だった主人公が父より受け継いだ古い小さな貨物船の船長になり、違法の運搬を引き受けて、長江を上流に遡っていく物語を中心に据え、そこに時空を超えたエピソードが展開するのが、映画「長江 愛の詩」でした。ミステリアスな女性が行く先々で登場し、主人公と愛を紡ぐ場面がありました。彼女の存在は何なのか、現代中国の経済発展の証とも言える三峡ダムの場面では、彼女との再会を果たすことはありませんでした。彼女は実在の人物ではなく、何かを象徴する存在なのかなぁと映画を観ているうちに気づきました。鄙びた港に停泊する主人公の貨物船。その中での老いた機関士や若い船員との現実的なやり取りや河口から見える風景を垣間見ていると、映画は現代中国の発展やら洪水で荒廃した村落を描いていて、実にリアルな印象を与えます。それでも主人公が船底から発見した亡父の地図や詩集によって、詩情的な幻想に誘われてしまうのです。映画の後半に長江の源流を旅する主人公がいて、まさに現実と幻想が織りなす世界観が、この映画の主張するところではないかと思いました。パンフレットから引用した文章を掲載します。「霊魂への意識や仏教、修行のモチーフの一方で、三峡ダム、河の汚染、河口の都市の様変わりが、富という現代中国の新たな宗教を指し示す。取り残される農村と洪水の生々しい惨禍。幻想的かつ詩的イメージとリアルな現実。相反するそうした要素がアン(女性)とガオ(主人公)のラブストーリーを複雑にねじれさせるのか?」(川口敦子著)煙る長江に見え隠れする迷宮じみた現実と幻想、錆色した現代と紫色めいた山水、瑞々しい自然の後にやってくる高層ビルの立ち並ぶ人工の空間。大河には対峙する世界が広がっていて、人と人のドラマより、寧ろ雄大な景観に圧倒されました。
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