横浜の「今右衛門の色鍋島」展

先日、4つの展覧会を一度に回って、最後のそごう美術館閉館間近に飛び込んだのが「今右衛門の色鍋島」展でした。あと30分もすれば閉館する時だったので、鑑賞者は疎らで、じっくり見るには最高のシチュエーションでした。時間を気にしていたのは最初だけで、そのうち歴代に亘る今泉今右衛門の世界に、時間を忘れて惹きつけられてしまいました。伝統は革新をもって守られ、その継承がさらに深い世界を創り上げることを、改めて確認した次第です。明治時代に藩の保護を失った鍋島藩窯は、庇護者なき道を行かねばならず、それでも怯むことなく進んだ十代目、十一代目が生産体制を作り直し、十二代目のモダンな技量で鍋島焼は新しいスタイルを考案しました。十三代目は釉下の素地を薄墨色に染める型破りなことをして、枯淡で幽玄な世界を創出しました。図録に「十三代が『吹墨』や『薄墨』を色鍋島の世界に持ち込むことで、陰翳という新たな装飾の地平を拓いた功績は大きい。」(荒川正明著)とありました。現在活躍中の十四代目は「墨はじき」によって、さらに洗練された意匠になり、まさに煌めく光の世界を捉えた大皿は、見る者を圧倒しています。図録の最後に、十四代目の学生時代のことに触れて「大学の教授陣には、戦後の日本を代表する現代彫刻家・若林奮らがおり、抽象彫刻、現代美術へと傾倒するのに時間がかからなかった。」(マルテル坂本牧子著)とありました。え?そうなの、私と同じ学校で学んでいたのか…と思っていたら親近感が湧きました。人間国宝という、私が逆立ちしても手の届かないところまで到達した十四代今泉今右衛門ですが、同じ学校で同じ地平を見ていた時期もあった彼に、将来の陶芸界を背負って頑張ってほしいと心から願っています。

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