「光景を眼に飲み込めよ」グスタフ・クリムト

オーストリアの画家グスタフ・クリムトは、近代絵画史上でも大きな存在感を示しています。19世紀末に彼は旧態依然とした写実絵画の反逆者となって、ウィーン分離派を組織しました。クリムトは攻撃的な人ではなかったようですが、結果として新しい潮流を生んだ先駆者になったと私は理解しています。流麗な金地で人物を囲み、装飾を施したクリムト特有の象徴主義は、世界的にも有名になり、日本でも人気の高い画家のひとりになりました。私も30数年前に、ベルヴェデーレ宮殿のギャラリーでクリムトの絵画に接し、琳派を思わせる平面的な世界と西洋の立体画法が混ざり合った不思議な世界観に恍惚とした覚えがあります。今回は「絵の証言」(佃堅輔著 西田書店)に取り上げられている23人の芸術家のうち4番目としてクリムトを取り上げてみました。本書ではクリムトの風景画に焦点を合わせていました。「晩年のクリムトが、わたしたちを感動させるものは、とりわけ象徴主義の『思想芸術』から、徐々に自然の見方へと発展していることである。」と本文にある通り、クリムトの風景画は草花の点描が織物のように広がり、そこに遠近法はありません。定番な風景画の説明的要素もありません。「クリムトの風景画には、珍しく人間(添景人物)はあらわれない。自然そのもの、それが彼の関心事だったから、風景は人間に対して、ひらかれ、そのなかに入ることができ、見回すことができる。彼は独自の方法で、肖像に描かれた人たちを自分の風景に関与させた。」と著者は述べていて、その独特な風景画観を論じています。「光景を眼に飲み込めよ」というコトバは、詩人ペーター・アルテンベルグのクリムト評に出てくるコトバです。まさにその通りの感想を私も持ちました。

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