「触れ合う造形」読後感

「触れ合う造形」(佃堅輔著 西田書店)を読み終えました。本書は、私が注目する画家や彫刻家を取り上げていたためか、内容が大変面白く、また考えさせられる箇所もありました。取り上げられた芸術家の頻度としてはムンク、キルヒナー、カンディンスキーの3人だったと思っています。彼らは北方ヨーロッパに活躍の場があったことで、精神的な思索が表現を支えていて、写実から象徴へ、また抽象へ進む作風に画業が占められています。彼らを取り巻く画家や彫刻家にも、優れた表現力をもって美術史に残る業績をあげている人が多く、その出会いが化学反応を起こし、さらなる深層世界へ進む契機になっていると感じました。異色だった芸術家は彫刻家ロダンでした。ロダンとムンクは直接に交流することはなかったものの、人間の心象を理解し、具現化する上で、意義ある触れ合いが出来ていると思いました。日本であまり紹介されることがない画家が取り上げられているのも、私にとって嬉しい限りで、とりわけドイツの画家は、私が若い頃から注目してきただけに感慨一入でした。24歳の時、一人降り立ったミュンヘンで、旅行荷物を安宿に置き、ハウス・デア・クンストやレンバッハ・ギャラリーで見たドイツ表現派の原画を私は今も忘れていません。そこからウィーンに移動して住所を決めて、鬱陶しい冬を越した時に感じた、表現派の表現派たる心理の追体験も忘れていません。日本にいた時に理解できなかったものがドイツ語圏の国に住むことによってわかったことが数多くありました。そんな感慨を思い起こさせてくれたのが本書だったことを付け加えておきます。

関連する投稿

  • 画家キルヒナーと戦争 20世紀初頭から第二次世界大戦のヒトラーの弾圧を受けるまで、ドイツは美術のエポックを迎えました。それがドイツ表現主義で、自分は学生時代から関心を寄せていました。まずコルヴィッツの版画が先陣を切って、 […]
  • 「精神的苦闘」ユーロ・レヴィン 私は20代の頃、5年間もウィーンに滞在していたにも関わらず、戦争の傷跡には目もくれず、ひたすらアートの動向ばかりに注目していました。美術館に展示されている現代芸術作品の中にはホロコーストが及ぼした深 […]
  • ドイツ表現派に纏わる雑感 現在、通勤中に読んでいる「触れ合う造形」(佃堅輔著 西田書店)と、職場に持ち込んで休憩中に読んでいる「見えないものを見る カンディンスキー論」(ミシェル・アンリ著 青木研二訳 […]
  • ドイツからの便り オーストリアのウィーンで暮らしていた20代の頃に、大学の先輩夫妻がやってきました。彼は大学で勤務していたのを辞めて渡欧してきたのでした。デザイン系の学科にいたにも関わらず、彼は音楽やオペラにも精通し […]
  • 「神と人を求めた芸術家」 表題はドイツの近代彫刻家エルンスト・バルラハのことを取り上げた「バルラハ~神と人を求めた芸術家~」(小塩節著 […]

Comments are closed.