ドイツ表現派に纏わる雑感

現在、通勤中に読んでいる「触れ合う造形」(佃堅輔著 西田書店)と、職場に持ち込んで休憩中に読んでいる「見えないものを見る カンディンスキー論」(ミシェル・アンリ著 青木研二訳 法政大学出版局)は、19世紀から20世紀初頭という時代を反映した芸術家の思索に富む書籍です。私は20代の頃から、この時代のドイツが果たした役割が大好きで、まだヒトラーが台頭する以前の、革新的で豊かな時代を想像してきました。ドイツ表現派の特徴である遠近法を無視したギクシャクした画面構成に、最初私は違和感を覚えていたにもかかわらず、大学で学ぶ写実的な人体塑造に何故かやるせなさを感じ始め、不自然と思える表現派の絵画に惹かれていきました。あるいは写実に徹底できなかった私の現実逃避だったかもしれません。一応写実を見極めたいと思っていた私は、具象表現以外は封印したはずでしたが、キュビズム、シュルレアリスムやら表現派、もっと前衛的な美術界の動きにワクワクしていたのでした。とりわけカンディンスキーの理論に魅了されてしまい、当時学んでいた彫塑の他に、独学で表現派紛いの版画に手を染めました。その頃、具象を推し進めて多面化や象徴化を図ったキュビズム以降の芸術家と、カンディンスキーの非対象理論は一線を画しているのではないかと思い始めました。ドイツ表現派は精神分析を基盤にして敢えて不自然な状況を作る芸術家が多かったように思いましたが、この一群もカンディンスキーの非対象理論とは異なっていると思っていました。さらにその表現の枠組みさえ破壊していく1960年代の芸術運動が台頭してきて、表現そのものを問う混乱が現在も続いていると感じています。私はドイツ表現派を現代美術への足掛かりにして、40年間あれこれ考えつつ、今は現代彫刻という枠に収まって制作をしています。書籍によって自分が歩んできた精神的支柱を再度考え直してみたい衝動に駆られ、今日のNOTE(ブログ)に書いた次第です。

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